肝・胆・膵臓

(1)ロボット補助下肝切除(ダ・ヴィンチ)

わたしたちは2012年から、手術支援ロボット“ダ・ヴィンチ”による腹腔鏡下肝切除を開始しました。腹部から、内視鏡と操作用のアームを挿入し、術者が3Dモニターを見ながら装置を動かすと、その動きがロボットに忠実に伝わって手術をおこないます。通常の腹腔鏡手術より繊細な動きが可能となり、より難易度の高い手術が可能となることが期待されています(図17, 18)。


図17. ダ・ヴィンチの操作 図18.実際のロボット補助下肝切除の風景

(2)腹腔鏡下肝切除

腹腔鏡下の肝切除は、2010年に肝部分切除と肝外側区域切除術が、2016年により大きな範囲の肝切除や複雑な肝切除術式が保険適応となりました。それに伴い、年々、腹腔鏡下肝切除症例数が増えてきました。当科では肝細胞がんや、転移性肝腫瘍、良性肝腫瘍を対象に、2010年から2020年までに219例と豊富な手術実績があります(図19)。

腹腔鏡下手術では、開腹手術より手術創や手術侵襲が小さい手術となり、術後の回復が早い傾向にあります。腹腔鏡下肝切除の適応も拡大しつつあります(図20)。


図19.肝臓外科における腹腔鏡下手術症例数


図20.実際の腹腔鏡下手術

(3)ハイブリッド手術

ハイブリッド手術室は血管造影・CTと手術が同時に出来るように設計されています。術中に血管造影が必要な手術や、カテーテル室では難しい、侵襲の高い治療を行うことができます(図21)。

当院では、2013年に開院した新診療棟においてハイブリッド手術室を新設しました。血管造影を行わなければわからない血管の切除や、手術中にカテーテル操作により目的とする血管の閉塞・拡張を行うことや、血管内の圧力の測定、血管造影による血行動態の確認などができます(図22)。

これらの手技においては、カテーテル手技を放射線科の医師が、手術を外科の医師が共同でおこないます。従来の手術室では不可能であった、新たな治療の展開が期待されています。


図21.ハイブリッド手術室


図22.ハイブリット手術室における手術風景

(4)画像ナビゲーション

  • 3D画像システム
  • 3D肝臓モデル
  • 術中造影超音波検査
  • ICG蛍光システム
  • 肝腫瘍術前マーキング
  • MRI手術室

肝臓の解剖は患者さんひとりひとり異なります。さらに、腫瘍の位置、大きさ、脈管との関係によって切除術式は大きく変わりますが、それら内部の構造は肝臓の表面から観察しただけではわかりません。わたしたちは、以下の先進的なシステムを利用することにより、高度で複雑な手術をより安全に行います。

~3D画像システムの利用~

従来は2次元の断層撮影(CT,MRI)から外科医が頭の中で立体構造をイメージして手術に臨んでいました。そのため、肝臓の手術は非常に高度で難易度の高いものでした。

わたしたちは、専用のソフトウェアを用いて、2次元の断層撮影(CT)を3次元(3D)画像に変換し、全ての肝切除症例において術前の評価を行っています。複雑な手術を行う際も、この3D画像を用いることで、術前の手術のシミュレーションと術中の立体解剖の確認ができます(図23)。


図23.肝腫瘍と肝内の血管の関係を3D画像で評価(緑の部分が腫瘍)

~3Dプリンターによる肝臓モデルの紹介~

難易度の高い手術が要求される場合などは、前述の3Dデータから、3Dプリンターを用いてオリジナルの立体モデルを作成し、手術のサポートに用いています。肝臓の表面から観察しただけではわからない血管などの内部の構造を、外科医が実際に手の中で3Dモデルを確認しながら手術を進めるため、より精度の高い手術が期待できます(図24)。

また、このオリジナルの肝臓モデルは透過性で実際の肝臓同様の軟らかい肝実質を持ち、術前に肝臓モデルを用いた肝切除のシミュレーションを行うことができます。


図24.3Dプリンターによる肝臓モデル

~術中造影超音波検査の利用~

肝臓は表面から観察しただけでは内部の構造がわかりません。そのため、肝切除を行う際には、内部の腫瘍や血管を確認するために術中超音波検査を行います。わたしたちは、さらに超音波造影剤であるソナゾイド®という薬剤を用いて検査の精度を上げています。

造影剤を用いた超音波検査では、従来の検査ではわかりにくかった腫瘍でも明瞭に描出されます。また、非常に小さな病変でも検出できるため、確実に腫瘍を切除することができます(図25)。


図25.術中超音波検査(左画面が造影超音波、右画面が通常超音波)(→が腫瘍)

~ICG蛍光カメラシステムの利用~

ICG蛍光カメラシステムは、肉眼では見えない近赤外像を観察するカメラです。特に、超音波検査ではとらえにくい、肝表面の小さな腫瘍の検索に用います。前もって蛍光色素を投与しておくことにより、蛍光色素の集積された腫瘍部分を描出できます(図26)。

また、必要な領域に蛍光色素を注射して、ICG蛍光カメラシステムで確認することにより、術前に計画した肝臓の切除領域を、予定通りで間違いのない切除が期待できます。私達は、以前より行っていた開腹肝切除に加えて、2020年からは腹腔鏡下肝切除用のICG蛍光カメラシステムを導入し、最新の手術を行うことができるようになりました(図27)。


図26.ICG蛍光カメラシステムを用いた肝腫瘍の検索(→が腫瘍)


図27.腹腔鏡下肝切除における、蛍光染色による予定切除領域の確認(・・・切除ライン)

~肝腫瘍術前マーキング~

画像診断の進歩に伴い、術中超音波では捉え切れないような小さな結節を切除するケースが増えてきています。

そのような症例に対するナビゲーション手術として、いくつかの方法のうち、術前肝腫瘍マーキングに対する臨床研究を行っています。術前に肝腫瘍の近傍に留置したマーカーをガイドに、腫瘍の切除を行います。(図28, 29, 30)。


図28. 術前マーキング後のCT画像(→マーカー、○が腫瘍)


図29. 切除後標本(○が腫瘍)


図30. 切除後標本(→マーカー)

~MRI手術室(SCOT: Smart Cyber Operating Theater)の利用~

画像診断の進歩に伴い、術中超音波では捉え切れないような小さな結節を切除するケースが増えてきています。

そのような症例に対するナビゲーション手術として、いくつかの方法のうち、全国的にも珍しい、術中MRI下での肝切除術を行っています。術中MRIはスマート手術室(SCOT: Smart Cyber Operating Theater)で行われます(図31, 32, 33, 34)。


図31. スマート手術室

広島大学病院の手術室の一角に設けられており、術中MRI撮影が可能です。


図32. 術中MRI撮影


図33. 術中MRIで撮影した肝腫瘍(○が腫瘍)


図34. 肝切除風景

同定した肝腫瘍を外科スタッフが協力して切除していきます。

(5)’新しい’肝切除の至適術式選択:VIPP scoreの開発

3D画像システムを用いて、術前に症例ごとの正確な肝切除量の予想ができます。わたしたちは、患者さんの肝予備能に応じて、安全性と根治性を兼ね備えた術式を選択しています。

肝切除の重篤な合併症のひとつである肝切除後肝不全を回避するために、術前肝機能と予定肝切除率を考慮したVIPP (Volume-associated ICG-PLT-PT) scoreを開発し、術式選択の指標としています(図35, 36)。

また、VIPP scoreを導入にした2018年以降、術後肝不全発症率は大きく低下しました(図37)。


図35. 肝機能(ICG-R, 血小板, PT活性)による許容される肝切除量の算定例


図36. VIPPスコアを用いた術式選択例

  • 中央二区域切除(赤の点線): 切除率35.8% ⇒ 予測肝不全発症率52.2%
  • 内側区域+前腹側領域切除(黄の点線): 切除率23.4% ⇒ 予測肝不全発症率16.7% ⇒ 選択


図37. VIPP scoreを導入前後の術後肝不全発症率

(6)高齢者に対する手術

日本では平均寿命の延長とともに人口の高齢化が進んでいます。それに伴い肝がんの発症年齢の高齢化が指摘されています。一般に高齢者は心肺腎など、各臓器の老化や代謝機能の低下を来たしており、治療選択の幅が狭められています。特に高い侵襲を伴う手術は高齢を理由に避けられる傾向にあります。

当院では、高齢者でも患者さんの状態に応じて積極的に手術を行っており、80歳以上の高齢者の手術症例数は年々増加しています(図38)。術前の正確な肝機能評価や、低侵襲な手術の選択、また、適切な術後管理を行うことによって、若年者と合併症は同等で安全に手術を行っています。


図38.80歳以上高齢者の肝切除術の推移

(7)ウォータージェット(水圧式ナイフ)を用いた肝切除

肝切除術における肝離断の方法は、いくつかありますが、当科では従来用いていた超音波吸引装置に加えて、水圧によって肝を離断する新しいデバイスであるウォータージェット(ERBE JET2®, 図39)を導入し、積極的に使用しております。また、その経験を国内に先駆けて報告しております。(Hamaoka M, et al. Experience and outcomes in living donor liver procurement using the water jet scalpel. JHBPS 26; 370-376, 2019)

ウォータージェットは、他のデバイスと異なり、肝離断の過程で熱を発しないため、残すべき主要な脈管に対する熱損傷のリスクが少ないと考えられています。また、脈管の周囲の肝実質のみを水圧で離断するため、小さな脈管まできれいに残しながら手術を進めることができます。


図39.A: ウォータージェットを用いた肝離断:小さな脈管が残る様子 B: ERBE JET2®本体

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