肝・胆・膵臓

広島大学病院では、良性・悪性肝疾患に対する肝切除を年間130例以上行っています(図1)。特に原発性肝癌の肝切除については、全国でも屈指の肝疾患センターであり、県内外から多くの患者さんをご紹介いただいています。

週刊朝日MOOK「手術数でわかるいい病院2019」でも、広島大学病院は、肝胆膵手術件数で全国7位、原発性肝癌手術件数では全国2位であったと掲載されました。


図1.最近10年間の肝切除症例数の推移

(1)原発性肝がん(肝細胞がんなど)

肝細胞がんに対する肝切除術

~患者さんにとって安全な術式を選択します~

肝切除の適応は、①肝がんの進行度、②肝予備能(肝硬変の程度、肝臓の余力など)、③全身状態などを評価した上で判断します。肝がんの位置が深く、進行度が高いほど大きな切除が必要になります。一方で肝予備能が低いほど切除できる大きさが限られてきます(図2)。

術前の肝予備能、許容肝切除量を評価して安全な手術に役立てています。

図2.(A)肝臓の解剖(日本消化器外科学会ホームページより引用)、(B)実際の肝切除の風景:バイポーラー、超音波吸引装置を用いて肝臓を切離していきます。

~術後経過と入院期間~

手術前の検査が済んでいれば、手術2-3日前の入院となります。通常の手術であれば、術翌日から飲水が、術後2日目から食事が開始となります。通常であれば術後10-14日で退院することが可能です。

~手術成績、生存率~

近年の手術手技、手術器具、周術期管理の進歩、術前画像診断の発達などにより、出血量や合併症の少ない安全な手術を提供できます。また術後も、きめ細やかな経過観察と加療(肝炎に対する抗ウィルス療法や再発に対する治療)などにより、長期成績も良好です。 以下にがんの進行度別にみた治療成績を示します(図3, 4, 5)。


図3.T因子の分類(原発性肝がん取り扱い規約第6版より)


図4.病期(ステージ)分類(原発性肝がん取り扱い規約第6版より)


図5.当科における病期分類による生存曲線 (2000年~2018年 初回肝切除1112例)

5年生存率(Stage I: 78.2%, Stage II: 74.4%, Stage III: 54.5%, Stage IV: 32.0%)
(参考)第20回全国肝癌追跡調査報告(2019年3月発表)より
5年生存率(Stage I: 79.3%, Stage II: 70.5%, Stage III: 53.1%, Stage IVA: 32.2%, Stage IVB: 25.8%)

肝腫瘍に対する腹腔鏡下肝切除術

~低侵襲性の追及を行っています~

腹腔鏡下の肝切除は、2010年に肝部分切除と肝外側区域切除術が、2016年により大きな範囲の肝切除や複雑な肝切除術式が保険適応となりました。それに伴い、年々、腹腔鏡下肝切除症例数が増えてきました。当科では肝細胞がんや、転移性肝腫瘍、良性肝腫瘍を対象に、2010年から2020年までに219例と豊富な手術実績があります(図6)。

腹腔鏡下手術では、開腹手術より手術創や手術侵襲が小さい手術となり、術後の回復が早い傾向にあります。腹腔鏡下肝切除の適応も拡大しつつあります(図7)。


図6.肝臓外科における腹腔鏡下手術症例数


図7.実際の腹腔鏡下手術(→腫瘍)

術前シミュレーションとICG蛍光法を用いた肝切除

3D画像システムを用いて、術前に症例ごとの正確な肝切除量の予想ができます。わたしたちは、患者さんの肝予備能に応じて、安全性と根治性を兼ね備えた術式を選択しています。


図8.3D画像システムを用いた術前肝切除シミュレーション

ICG蛍光カメラシステムは、肉眼では見えない近赤外像を観察するカメラです。術中に、必要な領域に蛍光色素を注射して、ICG蛍光カメラシステムで確認することにより、術前に計画した通りの肝切除領域を切除できます。私達は、以前より行っていた開腹肝切除に加えて、2020年からは腹腔鏡下肝切除用のICG蛍光カメラシステムを導入し、最新の手術を行うことができるようになりました(図9)。


図9.腹腔鏡下肝切除における、蛍光染色による予定切除領域の確認(・・・切除ライン)

高齢者に対する肝切除術

日本では平均寿命の延長とともに人口の高齢化が進んでいます。それに伴い肝がんの発症年齢の高齢化が指摘されています。一般に高齢者は心肺腎など、各臓器の老化や代謝機能の低下を来たしており、治療選択の幅が狭められています。特に高い侵襲を伴う手術は高齢を理由に避けられる傾向にあります。

当院では、高齢者でも患者さんの状態に応じて積極的に手術を行っており、80歳以上の高齢者の手術症例数は年々増加しています(図10)。術前の正確な肝機能評価や、低侵襲な手術の選択、また、適切な術後管理を行うことによって、若年者と合併症は同等で安全に手術を行っています。


図10.80歳以上高齢者の肝切除術の推移

(2)転移性肝腫瘍(大腸癌の肝転移など)

転移性肝腫瘍(主に大腸がん)に対する肝切除

転移性肝腫瘍(肝転移)は、他の臓器に発生したがんが肝臓に転移したものです。一般に、肝転移はがんが全身へ広がった状態と考えられ、末期がんと認識されがちですが、大腸がんの肝転移の場合、原発巣(大腸)がコントロールされていれば、肝転移の切除により治癒できる可能性があります。大腸がんガイドラインでは、切除可能な肝転移の標準治療は肝切除であることが明記されています。広島大学病院消化器外科では大腸外科チームと肝臓外科チームが協力して肝転移の治療に当たっています。一見切除不能と思われるような肝転移症例でもあきらめずに根治を追求します。

切除不能大腸癌肝転移に対する二段階肝切除術

我々の施設では、従来であれば肝転移の個数やサイズが大きく、肝切除の対象とならないような切除不能な高度肝転移症例に対して、新規抗癌剤の発達により、全身化学療法でdown-stageが得られ,切除可能となる症例が増えてきている。さらに、門脈塞栓術(肝臓の大きさを増大させる)を組み合わせることによって、2段階の肝切除を行い、すべての肝転移巣を切除する2段階肝切除術を行っている(図11)。わたしたちは切除不能肝転移に対して積極的な化学療法と肝切除により、生存期間の向上を目指しています。



図11. 化学療法後に、肝左葉肝転移に対して部分切除施行。門脈塞栓して肝左葉を肥大化させた後、肝右葉切除施行。

Repeat hepatectomy

大腸がん肝転移に対する標準治療は肝切除であり、再発をきたした場合でも切除可能な症例には再肝切除が推奨されます。当科の成績でも積極的な再肝切除により、生存率の向上が得られています (図12) 。


図12.再肝切除による治療成績

術後経過と入院期間

肝細胞がんの肝切除の場合とほぼ同様です。

手術成績、生存率

わたしたちは、1990 年以前から大腸がん肝転移に対して積極的に肝切除術をおこなってきました。肝切除術症例は年々増加し2020年までに328例となっています。これまでの肝切除で手術死亡例はなく、安全におこなわれています。2000 年から2020年までにおける大腸がん肝転移治癒切除症例の5 年生存率は50%以上と成績は良好です(図13)。


図13.大腸がん肝転移Grade 分類による生存曲線

臨床試験

わたしたちは、広島臨床腫瘍外科研究グループ(HiSCO)を組織して、県内多施設での共同研究【HiSCO-01 試験「切除可能な大腸癌肝転移に対するXELOX とベバシツマブによる術前vs.術後化学療法の有効性に関する多施設共同ランダム化第Ⅱ/第Ⅲ相試験」UMIN000004238】を行いました。結果は左記を参照ください。広島臨床腫瘍外科研究グループ(HiSCO)ホームページ

(3)門脈圧亢進症(食道・胃静脈瘤,肝性脳症,脾機能亢進)に対する治療

当院では総合的な肝疾患センターとして、内科、放射線科、外科が共同して、門脈圧亢進症(食道・胃静脈瘤,肝性脳症,脾機能亢進)対する治療にあたっています。下記に示すように、全ての治療選択肢の中から、各症例の問題点に対して、もっとも適切な手段を選択・施行しています。外科手術の成績について一部ご紹介致します (図14, 15, 16)。

内視鏡治療(内科)

内視鏡 (胃カメラ) で観察しながら静脈瘤に直接処置を行う治療法です。

  • 食道静脈瘤硬化療法(Endoscopic injection sclerotherapy :EIS)
  • 内視鏡的静脈瘤結紮術(Endoscopic variceal ligation: EVL)

カテーテル治療(放射線科)

首や脚の付け根の血管などからカテーテルを挿入し、静脈瘤やその原因となっている血管 (シャント) に対して血管内から処置を行う治療法です。

  • バルーン閉塞化逆行性経静脈的閉塞術(Balloon-occluded retrograde transvenous obliteration: B-RTO)
  • 経頚静脈的肝内門脈大循環短絡術(Transjugular intrahepatic portosystemic shunt: TIPS)
  • 経皮経肝的静脈瘤塞栓術(Percutaneous transhepatic obliteration: PTO)
  • 部分的脾動脈塞栓術(Partial splenic arterial embolization: PSE)

ハイブリッド手術(放射線科+外科)

こちらをご覧ください。

手術(外科)

開腹手術で脾臓を摘出することで上昇した門脈圧を低下させたり、シャント血流を遮断する治療法です。


  • 食道・胃静脈瘤に対するHassab手術(摘脾術+シャント結紮術)
  • 門脈圧亢進症・血小板減少症に対する脾摘術
  • アンモニア血症に対するシャント結紮術


図14. Hassab手術後の静脈瘤の変化

Hassab手術:開腹手術で脾臓摘出と、シャントの血流遮断を行う治療法
B-RTO:足の付け根の静脈からカテーテルを挿入し、薬剤でシャントを硬化・閉塞させる治療法

図15. Hassab手術とB-RTOの術後生存率、静脈瘤再出血率の比較Hassab手術 (Oshita K, et al. J Gastroenterol. 2020)


図16. 独自のスコアリングシステムによる脾臓摘出術後の肝細胞癌発症リスク予測

肝移植(外科)

こちらをご覧ください。

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